医療観察制度Q&A - 『教えて!医療観察』(神奈川県モデル活動研究会)

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1. 医療観察制度の目的は何ですか。

 本制度は、最終的には対象となる人の社会復帰を促進することを目的としています。

 精神の障害のために善悪の区別がつかないなど、通常の刑事責任が問えない状態のうち、まったく責任を問えない場合を心神喪失、限定的な責任を問える場合を心神耗弱といいます。このような状態で重大な他害行為が行われることは、被害者に深刻な被害を生ずるだけでなく、その病状のために加害者となるということからも極めて不幸な事態です。そして、このような人については、必要な医療を確保して病状の改善を図り、再び不幸な事態が繰り返されないよう社会復帰を促進することが極めて重要であると言えます。

 これまでは、精神保健福祉法に基づく措置入院制度等によって対応することが通例でしたが、①一般の精神障害者と同様のスタッフ、施設の下では、必要となる専門的な治療が困難である、②退院後の継続的な医療を確保するための制度的仕組みがないなどの問題が指摘されていました。

 この制度では、①裁判所が入院・通院などの適切な処遇を決定するとともに、国の責任において手厚い専門的な医療を統一的に行い、②地域において継続的な医療を確保するための仕組みを設けることなどが新たに盛り込まれています。

医療観察制度概要

2. どのような人がこの制度の対象となるのですか。

 この制度は、心神喪失又は心神耗弱の状態で重大な他害行為を行った人が対象となります。

 「重大な他害行為」とは、殺人、放火、強盗、強姦、強制わいせつ(これらの未遂を含みます。)、傷害(軽微なものは対象とならないこともあります。)に当たる行為をいいます。

 これらの重大な他害行為を行い、①心神喪失者又は心神耗弱者と認められて不起訴処分となった人、②心神喪失を理由として無罪の裁判が確定した人、③心神耗弱を理由として刑を減軽する旨の裁判が確定した人(実際に刑に服することとなる人は除きます。)について、検察官が地方裁判所に対して、この制度による処遇の要否や内容を決定するよう申し立てることによって、この制度による手続が開始されます。

 これらの対象となる行為については、個人の生命、身体、財産等に重大な被害を及ぼすものであり、また、このような行為を行った人については、一般に手厚い専門的な医療の必要性が高く、仮に精神障害が改善されないまま、再び同様の行為が行われることとなれば、本人の社会復帰の大きな障害ともなります。

 そこで、国の責任による手厚い専門的な医療と、退院後の継続的な医療を確保するための仕組み等によって、その円滑な社会復帰を促進することが特に必要であるとして、本制度の対象とされたものです。

3. 対象となる人の入院や通院はどのような手続で決定されるのですか。

 この制度では、対象となる人の入院や通院を、地方裁判所で行われる審判で決定することとしています。

 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行い、不起訴や無罪になった人については、検察官から地方裁判所に、適切な処遇の決定を求める申立てがなされます。申立てを受けた裁判所では、裁判官と精神科医(「精神保健審判員」といいます。)それぞれ1名からなる合議体を構成し、両者がそれぞれの専門性をいかして審判を行うことになります。

 審判の過程では、合議体の精神科医とは別の精神科医による詳しい鑑定が行われるほか、保護観察所による生活環境の調査が行われます。裁判所では、この鑑定の結果を基礎とし、生活環境を考慮して、更に、必要に応じ精神保健福祉の専門家(「精神保健参与員」といいます。)の意見も聴いた上で、本制度による処遇の要否と内容について判断することになります。審判の結果、裁判官及び精神保健審判員の意見の一致したところにより、この法律による医療を受けさせる必要があると認める場合には、「入院決定」又は「通院決定」が、必要があると認められない場合には、この法律による医療を行わない旨の決定(「不処遇決定」)がなされます。
 なお、対象となる人の権利擁護の観点から、検察官の申立てによる当初審判では、必ず弁護士である付添人を付けることとされ、審判においては、本人や付添人も、意見陳述や資料提出ができることとされています。

4. 保護観察所はこの制度でどのような役割を担うのですか。
  生活環境の調査とはどのようなものですか。

 この制度では、対象となる精神障害者の社会復帰を支援する関係機関の一員として、新たに「保護観察所」が加わります。
 保護観察所は、当初審判における生活環境の調査から、入院中における生活環境の調整、地域社会における処遇に至るまで、本制度の処遇に一貫して関与する立場にあり、ケア会議の開催等を通じ、対象者を中心として、処遇に携わる関係機関相互の緊密な連携が確保されるよう、処遇のコーディネーター役を果たすことが求められています。
 このような業務を適切に実施するため、保護観察所には、精神保健福祉士を始めとする精神障害者の保健及び福祉等の専門家である「社会復帰調整官」が配置され、本制度の処遇に従事することとされています。
 保護観察所が行う「生活環境の調査」は、裁判所の求めに応じ、対象者の住居や家族の状況、利用可能な精神保健福祉サービス・障害福祉サービス等の現況など、その生活を取り巻く環境について調査するものです。調査は、対象者本人や家族等の関係者と面談するほか、関係機関に照会するなどして行われ、その結果は、本制度による処遇の要否等を判断する際に考慮されることとなります。

5. 指定医療機関とは何ですか。指定医療機関での医療はどのようなものになるのですか。

 この制度における医療は、厚生労働大臣が指定する指定入院医療機関又は指定通院医療機関で行われます。これらを併せて「指定医療機関」といいます。

 入院決定を受けた人について、入院による医療を提供するのが「指定入院医療機関」です。指定入院医療機関は、国、都道府県又は特定(地方)独立行政法人が開設する病院のうちから指定され、対象となる人の症状の段階に応じ、人的・物的資源を集中的に投入し、専門的で手厚い医療を提供することとしています。

 一方、退院決定又は通院決定を受けた人については「指定通院医療機関」において、必要な医療を受けることになります。指定通院医療機関は、地域バランスを考慮しつつ、一定水準の医療が提供できる病院、診療所等から指定されます。
 指定医療機関では、①ノーマライゼーションの観点も踏まえた対象者の社会復帰の早期実現、②標準化された臨床データの蓄積に基づく多職種チームによる医療提供、③プライバシー等の人権に配慮しつつ透明性の高い医療を提供するといった目標・理念を掲げ、入院処遇又は通院処遇の各ガイドラインに沿った医療が行われることとされています。

 なお、これら指定医療機関が提供する医療については、いずれも全額国費により賄われることとされています。

6. 指定入院医療機関からの退院はどのようにして進められるのですか。

 この制度では、指定入院医療機関に入院した人が、その居住地等において円滑に社会復帰できるよう、入院当初から、退院に向けた取組を継続的に行うこととしています。

 具体的には、保護観察所が、指定入院医療機関や退院予定地の都道府県・市町村などの関係機関と連携して「生活環境の調整」を行い、退院地の選定・確保のための調整や、そこでの処遇実施体制の整備を進めることとしています。

 対象となる人の社会復帰の促進のためには、退院後の医療を確保することはもとより、必要な生活支援を行うことも重要です。このため、精神保健福祉センターや保健所などの専門機関を通じ、その地域における精神保健福祉サービス・障害福祉サービス等の実情等も踏まえ、具体的な援助の内容について検討することになります。

 調整の過程では,退院予定地の社会復帰調整官が、入院当初から指定入院医療機関を訪問し、本人から退院後の生活に関する希望を聴取したり、指定入院医療機関のスタッフと調整方針などについて協議します。また、外泊等の機会を利用して、本人と退院後の医療・援助等に携わる関係機関のスタッフとが面談する機会を設けるなど、地域処遇への円滑な移行に配慮することとしています。
 指定入院医療機関からの退院は、指定入院医療機関又は対象者本人等からの申立てを受けた裁判所による「退院許可決定」を要することとされ、一方、入院を継続する場合には、少なくとも6か月に1回は裁判所による「入院継続確認決定」を受けることを要するとされています。

7. 地域社会における処遇はどのようにして進められるのですか。

 当初審判で通院決定を受けた人と、指定入院医療機関に入院し、退院許可決定を受けた人は、地域社会における処遇を受けることになります。
 地域処遇においては、指定通院医療機関が本制度の「入院によらない医療」を担当し、必要となる専門的な医療を提供することとなります。
 入院によらない医療が行われる期間(「通院期間」)中は、保護観察所の社会復帰調整官による精神保健観察が実施されます。精神保健観察は、継続的な医療を確保することを目的として、本人との面接や関係機関からの報告などを通じて、その通院状況や生活状況を見守り、必要な指導や助言を行うものです。
 また、対象となる人の社会復帰を促進するためには、継続的な医療を確保するだけでなく、本人の生活を支援する視点から、必要な精神保健福祉サービス・障害福祉サービス等の援助を確保することが大切です。精神保健福祉法・障害者総合支援法等に基づき、都道府県・市町村(精神保健福祉センター、保健所等)や障害福祉サービス事業者等による必要な援助が提供されます。
 これら地域処遇において行われる医療,精神保健観察及び精神保健福祉サービス・障害福祉サービス等の援助の内容や方法を明らかにするため、保護観察所は、指定通院医療機関、都道府県・市町村等の障害保健福祉関係機関と協議して、対象となる一人ひとりについて「処遇の実施計画」を定めることとしています。地域社会における処遇は、この実施計画に基づいて、関係機関が相互に連携協力しながら進めることとなります。

8. 医療観察法と精神保健福祉法の関係について教えてください。

 通院決定又は退院許可決定を受けて、地域社会における処遇を受けている期間中は、原則として、医療観察法と精神保健福祉法の双方が適用されます。本制度の地域処遇の実施体制は、精神保健福祉法に基づく精神保健福祉サービスを基盤として形づくられるものとも言えます。

 また、任意入院、医療保護入院、措置入院などの精神保健福祉法に基づく入院を行うことについても、通院期間中は妨げられることはありませんので、病状に応じて、これらの入院が適切に行われる必要があります。例えば、本人の病状の悪化が認められた場合などは、必要な医療を確保し、本制度による入院医療の必要性が認められるかどうかの判断を行うためにも、必要かつ相当と判断される場合は、精神保健福祉法に基づく入院等を適切に行い、一定期間、病状の改善状況を確認するといった対応が考えられます。

 精神保健福祉法に基づく入院の期間中も、精神保健観察は停止することなく続けられ(通院期間も進行します。)、この場合、指定通院医療機関や保護観察所は、本人が入院している医療機関と連携し、必要とされる医療の確保とその一貫性について留意することとされています。

 なお、入院決定を受けて、指定入院医療機関に入院している期間中は、精神保健福祉法の入院等に関する規定は適用されません。

9. 関係機関の連携が重要だと思いますが、この制度ではどのようにして
  連携を確保することとしているのでしょうか。

 地域社会における処遇が適正かつ円滑に実施されるためには、これを担う指定通院医療機関、保護観察所、障害保健福祉関係の諸機関が相互に連携協力して取り組むことが極めて重要です。

 この制度では、保護観察所が、指定通院医療機関や都道府県・市町村等の障害保健福祉関係機関と協議して、対象となる一人ひとりについて「処遇の実施計画」を定めることとしています。この実施計画では、地域社会において必要となる処遇(医療、精神保健観察、援助)の内容・方法と関係機関の役割を明らかにすることとしています。

 また、処遇の経過に応じ、保護観察所は、関係機関の担当者による「ケア会議」を開催することとしています。ケア会議では、各関係機関による処遇の実施状況などの必要な情報を相互に共有しつつ、処遇方針の統一を図ることとしています。

 関係機関相互の連携協力が重要であるとはいっても、このような協力体制が一朝一夕に整うはずはありません。このため、保護観察所では、都道府県とも相互に協力しつつ、指定通院医療機関や障害保健福祉関係機関と連絡協議の場を持つなどして、あらかじめ必要な情報交換を行い、平素から緊密な連携が確保されるよう努めていくこととしています。

10. 処遇の実施計画には、どのような内容が盛り込まれるのですか。

 保護観察所が、指定通院医療機関や、都道府県・市町村等の障害保健福祉関係機関と協議して作成する「処遇の実施計画」には、対象となる一人ひとりの希望を踏まえ、必要となる医療、精神保健観察、援助の内容と方法が記載されます。

 具体的には、医療観察法施行令及び施行規則の規定に基づいた様式が定められているところですが、例えば、本人の希望、地域処遇の実施により達成しようとする目標を記載することとされているほか、医療については、通院や訪問介護、デイケアの予定などが、精神保健観察については、本人との接触方法(訪問・出頭等)などが、援助については、利用する精神保健福祉サービスや障害福祉サービス等の内容や方法などが記載事項とされています。また、病状の変化等により緊急に医療が必要となった場合の対応方法や、ケア会議の開催予定なども盛り込むこととされています。

 実施計画の内容については、本人への十分な説明と理解が求められますし、作成した後も処遇の経過に応じ、関係機関相互が定期的に評価し、見直しを行うことが必要です。
 また、本制度による処遇終了後における一般の精神医療・精神保健福祉サービス等への円滑な移行についても視野に入れて、その内容を検討することが大切になると考えられます。

11. 関係機関によるケア会議は、どのようにして行われるのですか。

 地域社会における処遇を進める過程では、保護観察所と指定通院医療機関、都道府県・市町村等の障害保健福祉関係機関の担当者による「ケア会議」が開催されます。

 ケア会議を通じ、関係機関相互間において、処遇を実施する上で必要となる情報を共有するとともに、処遇方針の統一を図っていくこととされています。

 具体的には、処遇の実施計画を作成するための協議を行うほか、その後の各関係機関による処遇の実施状況や、本人の生活状況等の必要な情報を共有し、実施計画の評価や見直しについての検討を行います。また、保護観察所が裁判所に対して行う各種申立て(本制度による処遇の終了、通院期間の延長、(再)入院)の必要性についての検討や、病状や生活環境の変化等に伴う対応などについても検討されます。

 ケア会議は、保護観察所が、定期又は必要に応じて開催し、地域処遇に携わる関係機関の担当者が参加するほか、本人及びその保護者も、基本的にケア会議に出席して意見を述べることができます。
 ケア会議で共有される情報の取扱いについては、個人情報保護の観点から特段の配慮が必要となります。

12. この制度による地域社会における処遇は、どのようにして終了するのですか。

 本制度による地域社会における処遇を受けている期間(以下「通院期間」といいます。)は、裁判所において退院許可決定又は通院決定を受けた日から、原則3年間となります。ただし、保護観察所又は対象者本人等からの申立てに応じ、裁判所において処遇終了決定がなされた場合には、その期間内であっても、本制度による処遇は終了することになります。

 一方で、3年を経過する時点で、なお本制度による処遇が必要と認められる場合には、裁判所の決定により、通じて2年を超えない範囲で、通院期間を延長することが可能とされています。

 処遇終了決定や通院期間の満了などにより、本制度に基づく地域社会における処遇が終了した場合でも、引き続いて一般の精神医療や精神保健福祉サービス等が必要である場合が通例であると考えられます。

 本制度による処遇の終了に当たっては、一般の精神医療や精神保健福祉サービス等が、必要に応じ確保されるよう、本人の希望を踏まえながら、関係機関が相互に協議するなどして、十分に配慮することが大切と考えられます。

医療観察制度は、心神喪失又は心神耗弱の状態で重大な他害行為を行った人の社会復帰を促進することを目的とした制度です。
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